尾道ベッチャー祭

尾道が疫病退散にむけて一丸に。尾道ベッチャー祭2022レポート

2022年11月3日、秋晴れの中、待ちに待った「尾道ベッチャー祭」のハイライトであるベタ・ソバ・ショーキーの三鬼神とシシを先導にした神輿の巡行が開催されました。3年ぶりに三鬼神が御神輿と共に市内を広く巡行しました。朝から暗くなる時間帯まで、観客と共に大いに盛り上がりました。

朝陽が照らす路地を駆け抜け吉備津彦神社へ

巡行は朝7時半からということもあり、7時過ぎの柔らかい朝陽が降り注ぐ入り組んだ坂道の路地を、子どもたちが元気いっぱいに駆けていきます。目指すのは、尾道ベッチャー祭の出発点、吉備津彦神社とそのすぐ近くにある御旅所です。神社では、すでに三鬼神ベタ、ソバ、ショーキーのかけ声とお囃子、鐘の音が響き渡っています。神社についた小学生くらいの子どもたちは、三鬼神の姿にテンションアップ! 大人も子どもも、待ちに待ったお祭りが始まる。そんな気持ちが会場に広がっていました。

7時半になると商店街の一角にある御旅所に、御神輿と三鬼神とシシ、保存会の面々が集合。早い時間にも関わらず、多くの人たちが見守る中、大きなかけ声やお囃子がアーケードに響き渡ります。早速、子どもたちを追いかけ回す三鬼神とシシ。

棒でつつかれたり、ささらで叩かれると病気平癒や頭が良くなる、子宝に恵まれるなどのご利益があるといわれているため、大人は進んで小さい子どもを鬼神たちやシシに差し出します。小さい子の大きな泣き声が響き渡る一方で、小学生くらいの子どもたちの中には、自ら三鬼神に絡みに行く子も! スタートから、鬼神たちも観客も全力で向き合っていました。

御神輿も、三鬼神やシシに負けていられません。男たちの威勢の良い声があがります。激しく動く御神輿に送られる、沿道の人たちの熱い視線。御神輿を通して、人々の間に一体感が生まれるのを感じる瞬間です。

お布施をされた方の前で激しく動く神輿。3年ぶりの振る舞いも楽しみながら進む

道を進めば進むほど、増えて行く観客。お祭りを目当てに足を向ける地元の人だけでなく、観光客も「何かしら?」と足を止めます。お祭りの賑わいは、時間とともに増すばかり。密になりすぎないよう、看板で注意を喚起しながらお祭りは進みます。

寄進者のお家の前では、お家の人が神輿の到着を待っていました。鬼神たちやシシは先に彼らをつついたり、叩いたりと厄除けを行い、続いて御神輿が到着すると、大きく上下し「ここじゃ、ここじゃ、ヨイヨイヨイヨイ!」と、一団と大きなかけ声。お家の前で待っていた人たちのうれしそうな表情も印象的です。

三鬼神とシシの太鼓を鳴らすのは、「ベッチャー太鼓」のメンバー。今回は中学1年生から20代前半までの若いメンバーで構成されていました。メンバーのひとりは「お客さんがたくさん集まってくれてうれしい。尾道の疫病がなくなるように、と思いながら叩いています」と話していました。

法被を着る保存会の面々の中には、変わったヘアスタイルの人たちも。「シシ」や「神輿」などさまざまな文字が刈り上げで表現されています。お話を聞いたところ、「毎回セルフで刈り上げて、メンバーの中にいるプロが最後に仕上げている」とのこと。こういった髪型からも、保存会の人たちの気合いが伝わってきました。

休憩中も大活躍の三鬼神。子どもの阿鼻叫喚が尾道に響き渡る!

休憩所では、飲み物が配られるなど地域の方々もお祭りをサポートします。こういったサポートもあって、最後まで全力で皆さん、御神輿も鬼神たちも声を出し、動き続けられるのですね。多くの人たちに支えられていることを感じさせるシーンです。

休憩中も三鬼神とシシは、集まった人々を叩いたり、記念撮影に応じたりと大忙し! 小さな子どもたちの阿鼻叫喚が路地に響き渡ります。子どもだけでなく、小さな犬たちも鬼神たちにおびえているのが印象的でした。

その場で保存会の人に声を掛けて、お布施された方も。子どもに関係する仕事をしているという女性は「子どもの頃からこのお祭りを楽しみにしている。開催されて良かった」と、3年ぶりの開催に喜びの表情。「勇(いさみ)」と書かれた袋を下げた人たちからタオルとお札を受け取っていました。

なかには三鬼神の衣装を着た子どもも。「姉が作って、上の子から引き継いだ衣装です」と密かに家族内で受け継がれた衣装という、地元育ちのご家族らしいエピソードも。

子どもたちの中にはオリジナルのベッチャー棒を持った子も多数。お話を聞いたところ、地元の保育園で作ったモノだそう。保育園によってデザインが違っているのですね。

3年ぶりの開催となり、今回初めてのベッチャー祭りとなった女の子は、鬼神たちにおびえた様子。でも3年前にすでに体験しているお兄ちゃんは「怯えなくなりました(笑)」と、子どもの成長も感じさせるお話も聞くことができました。

駅前でのベッチャー太鼓の披露は大盛り上がり!

お昼のハイライトは、駅前の広場で行われました。広場の周囲だけでなく、歩道橋の上からも人々が見守ります。

まずは鬼神たちが到着。観客から子どもたちを見つけ出して、狙い撃ちします。もちろん、おびえた子どもは号泣! 周りの大人たちが温かく見守ります。続いて御神輿も到着し、会場はさらに賑やかに。ベッチャー太鼓が、さらにお祭りを盛り上げていました。

演奏後、人々とステージを分けていたロープがはずれると、三鬼神やシシに人々が群がり、子どもたちの泣き声も活発に。微笑ましい風景が繰り広げられていました。

お祭りのハイライトのあとも、勢いは衰えません。鬼神やシシ、御神輿とともに、より威勢の良い声が尾道の空の下に響き渡ります。午後になり、より増えた観光客たちも足を止めて、お祭りに参加。人々の数は増える一方で、クライマックスに向けて、盛り上がりが増していきました。

日暮れと共にクライマックス。涙の大団円!

お祭りのクライマックスは、吉備津彦神社です。赤い提灯で照らされた階段を、三鬼神が先導し、その後、御神輿が登ります。多くの人々が見守る中、「こっこじゃあ、こっこじゃあ、ヨイヨイヨイヨイ」というかけ声と共に、何度も御神輿が階段を行き来し、名残惜しそうな姿を見せてくれます。

境内にあがってからも、幾度もぐるぐると回される御神輿。そして、鳥居をくぐってからも、何度も行ったり来たりを繰り返します。

ああ、お祭りが終わってしまう。そんな名残惜しい気持ちが、御神輿だけでなく、保存会の人たちから言葉もなく溢れてきて、観客たちの心を熱くしていました。

ついに、最後。御神輿が置かれると、保存会の人たちが円陣を組み、その中央でジャズのようにエモーショナルな太鼓の演奏が行われました。今年、無事に御神輿も含めたお祭りが開催されたことを喜んでいるような、この瞬間が終わることを惜しんでいるような太鼓の音。その後神事が行われ、無事、尾道ベッチャー祭りが終演となりました。

2022年の尾道ベッチャー祭りに寄せて。長尾健さん

最後に、一宮神社(吉備津彦神社)ベッチャー祭保存会 広報担当総代の長尾健さんに、今年の祭りを振り返ってもらいました。

「無事に終わってホッとしています。お祭りの流れや来られる方の人数など不安は多くありましたが、最低限のルールをきちんと守って行うことができました。メンバーは皆、疫病退散という思いでお祭りをやっています。新型コロナウイルスの第8波の報道もありますが、来年は制限なしでできるようになるといいですね。とはいえ、来年は来年の風が吹く。今年の教訓を生かして、来年も開催を目指したいです」

保存会の人たち、ヘルプに来ていた人たち、観客……秋の尾道に集った人たちが一丸となって作り上げた青春のような1日。熱い想いを感じる祭りの様子は動画でも配信されています。疫病退散を願って、来年も再び三鬼神とシシ、そして御神輿が尾道を元気よく駆け抜け、子どもたちの泣き声が響くことを祈っています。