江戸時代文化年間に、当時流行った疫病を抑えるために行われたお祓いが起源という尾道ベッチャー祭。新型コロナウイルスという現代の疫病が流行する中、昨年に続き、2022年も規模を縮小して行われます。
ベタ・ソバ・ショーキーの三鬼神が現れて町を練り歩くこの奇祭を支えているのは、どのような人たちなのか。そして、未来に向けてどのような継承活動に取り組んでいるのか。一宮神社(吉備津彦神社)ベッチャー祭保存会 広報担当総代の長尾健さんにお話を聞きました。
長尾健(ながお たける)さん
一宮神社(吉備津彦神社)
ベッチャー祭保存会 広報担当総代
尾道市内で育ちながら、21歳のときからベッチャー祭に関わる。青年部長を経て、総代会へ。
——ベッチャー祭はどのように生まれたのでしょうか。
江戸時代後期の文化4年(1807年)、尾道に疫病が流行り、奉行の南部藤左衛門(なんぶとうざえもん)が各神社にお祓いを命じました。その時、吉備津彦神社(一宮神社)でも三日二夜の大修祓を行ったあとに、三鬼神と獅子頭を先頭に、御神輿を担いで市内を練り歩いたことが始まりと言われています。
——祭りに登場する三鬼神の名前は、かなり特徴的ですね。どういった意味があるのでしょうか。
「ベタ」は、尾道の言葉で平べったいことを「べちゃー」と言うんです。「ベタ」の顔も平べったいですよね。この「べちゃー」が転じて「ベタ」になったと言われています。
「ショーキ」は、最初に担当した人が「ショーキチ」だったから。「ソバ」は、元々白くなかったそうです。かぶっていた人の趣味が蕎麦打ちで、顔にそば粉がついている様子をおちょくる形で白くしたと聞いています。
この中で一番格が高い鬼神が「ベタ」なので、その名前の由来である「べちゃー」から「ベッチャー祭」になったと言われています。
——長尾さんが保存会に参加したのはいつ頃からでしょうか。
幼い頃から存在は知っていましたが、このお祭りのメインは土堂地区という場所が中心です。私は学区的には他の地区になりますが、21歳の時に誘われて保存会の青年部に参加するようになりました。今、59歳なので、40年近く関わっています。
——とても長い期間ですね。これまで続けられてきた一番大きな理由は何でしょうか。
やはり、保存会に参加しているメンバーが年齢関係なく、1つのこと=祭りに向かって取り組むところにやりがいを感じているからではないでしょうか。仕事場や学校とは違う世界を勉強できましたし、途中途中で様々なことにチャレンジできたことも大きいです。
御神輿や御旅所を作ったり、「ベッチャー太鼓」の創立にも関わりました。一定周期でチャレンジさせてもらえたことで、気持ちが前へ前へと進められたのだと思います。
——長尾さんにとって、このベッチャー祭とは、どのような存在なのでしょうか。
人生そのものです。お宮ごとに携わることができたからこそ、今があると感じております。この活動をしているということで、自分としても胸を張れますからね。ありがたいです。
また、会社にも迷惑をかけながらも保存会の活動を積み重ねてきましたが、こちらもありがたいことに理解いただき、協力してもらえています。
——今後、ベッチャー祭を継承するにあたって、長尾さんの思いをお聞かせください。
継承とは、現状維持もしくはより良くしていくことを意味します。だからこそ、いい意味でプレッシャーを感じますね。
保存会の活動は仕事と違い、見返りを求めない気持ちが大切です。継承してくれる若い人たちに対しては、見返りを求めず、自分の気持ちに素直になって自然体で取り組んで欲しいです。
また、自分が若いときにポストを任せてもらえたからこそ、今があると感じています。だからこそ、しんどすぎない範囲で、私たちも若い人にいろいろ任せて成長してもらいたいという親心もありますが、今の若い人には言葉で言わないと通じません。でも、そういった気持ちも背中を見て感じ取ってもらえると嬉しいですね。
——お囃子を現代風にアレンジした「ベッチャー太鼓」のような取り組みも行なっていますが、どのような狙いで活動されているのでしょうか。
ベッチャー太鼓は、昭和61年に立ち上げられました。今年で36年目になります。ベッチャー祭をPRするためのものですが、最初は太鼓好きの有志が集まって始まりました。
学校に向けてのPR活動も行なっていまして、100人に1人でもいいから小学生に興味をもってもらって、入ってきてもらいたいという狙いを持ち、小学校に出向いてベッチャーの話をしたりします。
土堂(つちどう)小学校には土堂っ子太鼓というベッチャー太鼓に憧れて結成されたチームもあるんです。保存会のベッチャー太鼓も小学生から受け入れているので、興味を持って入ってもらえればと思っています。
また同じ尾道市内でも、地域が変わるとベッチャー祭を知らない人も多くいます。このベッチャー太鼓を通じて、全尾道、そして全国にベッチャー祭を知ってもらいたいと考えています。
——コロナ禍の中でも規模を縮小しつつ、限定的な開催を続けてこられたと伺いました。今年の開催に向けての思いをお聞かせください。
去年、一昨年とコロナ禍の中、お祭りに限らず様々な行事が中止となりました。しかし、保存会の関係者は中止ではなく「実施するにはどうしたらいいのか」と考え、規模縮小をしながら実施してきました。
ただ規模は縮小しても、三鬼神は全コースの巡行を目指すという考えのもと、保存会のメンバーだけで行える範囲にはなりますが、朝〜夕方まで全コースに近いところを行けるようにしました。ただ、やはり行けなかった場所もあり、その点が悔やまれていました。
今年は関係団体にも協力してもらいながら、コロナ禍前までコースを戻して、全コースを巡ることを目指しています。
もちろん感染対策をしっかり行うことは大前提です。最大限、できる限りのことは行いますので、お祭りに来られる方も対策をして参加頂けると嬉しいです。